こんにちは。福岡臨床心理オフィスです。
梅雨が明け、本格的な夏を感じる季節となりました。暑さが続くこの時期は、心にも身体にも疲れがたまりやすく、身近な人とのすれ違いが増えることもあります。
今回は、カップルカウンセリングで時々見られる場面をもとに、「なぜお互いに『私は悪くない』と思ってしまうのか」というテーマについてお話ししたいと思います。

「私は悪くない」「僕は悪くない」のぶつかり合い
カップルカウンセリングでは、
「私は悪くない」
「僕は悪くない」
という、それぞれのストーリーがぶつかり合っている場面に出会うことがあります。
もちろん、そのお気持ちはどちらも本物です。
しかし、お互いが自分の正しさだけを語り続けると、話し合いは平行線になってしまいます。
以前の記事「夫婦カウンセリング(カップルカウンセリング)で思い込みへの気付きを」でもお伝えしたように、私たちは誰でも「自分にとって当たり前」の世界を生きています。

カウンセリングでは、まず一人ずつお話を伺います
当オフィスの夫婦関係改善カウンセリング(90分)では、まずお二人それぞれのお話を伺う時間を設けています。
例えば、
- Aさんには30分程度、ご自身の思いや出来事を自由に話していただく
- 続いてBさんにも同じように話していただく
という流れです。
すると、不思議なことが起こります。
Aさんのお話には、Aさんの世界があります。
それは一つの物語として筋が通っており、「なるほど、そう感じるのも自然だな」と思える内容です。
そして次にBさんのお話を聞くと、こちらにもまた、一つの世界があります。
こちらも筋が通っていて、その人にとっては自然な世界なのです。
まるで、黄色の世界と青色の世界。
どちらも美しくまとまっているけれど、見えている景色そのものが違うような感覚です。

自分を振り返るということ
お互いの世界の違いに気付いたとき、2人で危機感を持ち、改善を試みる場や時間を作り、話し合った結果、関係が修正される場合があります。
何が必要かと言えば、各々が自分自身を振り返ることができるという点です。
例えば、
- 私は相手から理解されにくい言動(振る舞い)をしていなかっただろうか。
- 私が「当たり前」だと思っている物事への取り組み方は、相手から見ると「不思議なこと」なのだろうか。
- 私がそうして欲しいからといって、相手にも同じことを求めるのは、自分勝手なのだろうか。
このような問いを自分自身に向けることができるようになると、「私は悪くない」という物語だけではなく、「相手から見ると、私はどう見えているのだろう」という視点が少しずつ育っていきます。
「当たり前」は人生の歴史から作られている
私たちにとって“当たり前”だと思っている思考や感情、行動は、これまでの人生のどのようなプロセスから生まれてきたのでしょうか。
幼い頃から、
- 認められた経験
- 傷ついた経験
- 立ち直った経験
そうした出来事を通して、自分の考え方や感じ方、行動の仕方は形づくられてきたはずです。
そのプロセスの中では、何かが強化されたり、壊れたり、再び立ち直ったりという経験を繰り返してきたことでしょう。
そうした経験を、「自分のあり様の歴史」として興味深く振り返ったことはあるでしょうか。
その積み重ねが、「これが私」「これが僕」という感覚を作っているのかもしれません。
だからこそ、自分の歴史を理解できる人ほど、「自分に歴史があるように、相手にもその人なりの歴史がある」と受け止めやすくなるのです。

内省には「安心できる環境」が必要です
このように自分自身を振り返ることを、「内省」と呼びます。
しかし、内省はいつでも自然にできるものではありません。
その前提には、環境への安心感が必要です。
それは、
・内省には価値があることを自分が認めている
・周囲(たとえば家族)がそれを応援してくれる
というような意味です。
人は、常に戦っているような心の状態では、自分のことを落ち着いて見つめ直す余裕を失ってしまいます。
言うなれば、内省とは、時間や空間を使って「内省の旅」をするようなものです。
その旅の中では、自分の考えがぶつかって葛藤したり、新しい気付きが生まれたり、ときには「なるほど、そういうことだったのか」というブレイクスルーに出会うこともあります。
そして、そのような気付きを安心して経験できるよう支える仕組みが大切になります。
こうした内省は、自室で一人静かに行えることもあります。
一方で、心理士が同席する計算された環境、すなわちカウンセリングルームだからこそ進む場合もあります。
以前の記事「カップルカウンセリングの効果は?~カップルカウンセリングで気を付けていること」でもご紹介したように、私たちは、お二人が安心して話せる環境づくりを大切にしています。

第三者がいることで見えてくるもの
もし内省がうまく進まず、「私は悪くない」というストーリーが強く固まってしまっている場合には、心理士という第三者がいることで、落ち着いた環境の中で相手の視点を想像し、自分の言動を検証することが少しずつ可能になっていきます。
「相手はこんなふうに受け取っていたのか。」
そんな小さな気づきが、関係を大きく変えるきっかけになることも少なくありません。
カウンセリングとは、このような「相手側の視点から自分の言動を検証する」ための時間でもあるのです。

おわりに
夫婦やパートナーは、毎日一緒に過ごしているからこそ、「同じ世界を見ているはず」と思いやすいものです。
しかし実際には、それぞれが異なる人生を歩み、それぞれの「当たり前」を持っています。
夫婦関係改善カウンセリングでは、その違いを「どちらが正しいか」で判断するのではなく、「お互いはどんな世界を見ているのか」を丁寧に確かめながら、対話を積み重ねていきます。
「相手が変わればいい」ではなく、「自分にも見えていなかった世界があったのかもしれない」。
その気づきが、お二人の関係を新たな方向へ導く一歩になることがあります。
(臨床心理士 調)


