東畑開人著『カウンセリングとは何か』を読んで ― カウンセリングの中身を考える | 福岡臨床心理オフィスブログ

こんにちは。福岡臨床心理オフィスです。

厳しい暑さが続く8月も終わりに近づき、朝夕にほんの少し秋の気配を感じるようになってきました。夏の疲れが出やすいこの時期は、自分の心の状態や日々の過ごし方を振り返る機会にもなりやすい季節です。

今回は、東畑開人氏の『カウンセリングとは何か』(講談社現代新書)を読んで感じたことを、臨床心理士の立場からお話ししたいと思います。

カウンセリングで課題を整理し、今後の道筋を一緒に考えるイメージ


「カウンセリングとは何か」を読んで

『カウンセリングとは何か』という本を読みました。13年間、生業として当オフィスを運営している私が読んだ時に思ったのは、

「よくぞ、カウンセリングの中身について、知識と疑似体験ができるプロセスを書いてくれて、ありがとう」

ということでした。

臨床心理士として研鑽を深めれば深めるほど、専門的な用語や難解な心の状態について学び、それを解きほぐす手法を身につけるほどに、シンプルな「カウンセリングって何をするんですか?」という問いに、かえって答えにくくなることがあります。

そのような時に、もどかしさを感じることもありました。

心理学に関する本を読みカウンセリングについて考えるイメージ


ホームページ作成時に感じた難しさ

振り返ってみると、現在のホームページを作成する時にも、当時の受付スタッフから、

「『カウンセラーは信用できる人間です』という情報よりも、『カウンセリングの中身がどのように良いのか』をユーザーは知りたいのだと思います」

と言われた時に、はっとしたことを覚えています。

しかし、それぞれのクライエントさんの症状や困り事は違いますし、道のりも違い、目的も違い、期間も変わります。その中から共通項を取り出して、わかりやすく説明するのは難しいものです。


「カウンセリングの国」に入国する前に

この本では、説明しにくいカウンセリングの中身を理解するために、知識を得ることと同時に、「カウンセリング」という心の営みを自分事として考えられるような構成になっています。

東畑氏は、カウンセリングを「カウンセリングの国に入国して、旅行をする」ことにたとえています。現地に赴く前に、まず国境の外側から概要を確認していきましょう、というのが第一章です。

まず「カウンセリングとは何か」を、社会的な構図の中で説明しています。

カウンセリングという新しい世界へ一歩踏み出すイメージ


クラインマンのヘルスケア・システム論

そこで紹介されているのが、医療人類学者アーサー・クラインマンのヘルスケア・システム論です。クラインマンは、人々が健康を追求する時に、社会には三つのケア資源があると理論化しました。

  • 民間セクター(家族や友人に相談する)
  • 民俗セクター(宗教家や占い師に相談する)
  • 専門職セクター(臨床心理士や医師に相談する)

これらは重なる部分も存在しており、また専門家を利用することで、素人同士の日常的なケア(これを民間セクター)が再起動されるような仕組みも提示されています。

そしてクラインマンは、民間セクターを一番大きな円で描いていて、日常的な苦悩のほとんどは素人同士のケアで解消されているという洞察を示しています(p54より)。

社会の中で、人が治ること、変化することを促すケア資源が複合的に存在している。その中で、カウンセリングの担う部分が確かにあることを明らかにしていく流れに、私は感心しました。


「謎解き」「作戦会議」「冒険」

本書では、カウンセリングの国に入国した後を、「謎解き」「作戦会議」「冒険」として描き続けます。

私たちが初回面接を大事にし、そこでアセスメントを行うことは、確かに「謎解き」です。そして見立てを行い、今後のプランを考えることは「作戦会議」と言えるでしょう。

その後、実際のカウンセリングでは、話を続けたり質問を重ねたりしながら、最初の見立てが適切だったかを検討し、必要に応じて再び見立てを行うこともあります。


「現実の解決」と「実存」

東畑氏は、カウンセリングには二つのコースがあると述べています。

  • 現実の解決のための生存のコース(日常生活の立て直し)
  • 「いかに生きるか」を考えていく実存のコース(人生の物語的営みの文学的変化を促す)

そして、その実存コースには「冒険」が入り込む、と。これは私ももっともだと感じました。

クライエントさんがカウンセリングの出口に何を求めているかによって、歩んでいくコースは変わります。

私自身の臨床を振り返ると、現実的な問題が改善されて生活が上手くいくようになった後にも来所を続けているクライエントさんは、「いかに生きるか」がテーマになっていくことが確かにあります。

そして、クライエントさんはそれぞれに変化していきます。

現実的な問題解決と、自分らしい生き方について考えるイメージ


おわりに

2026年に新書大賞を受賞したこの本は、説明しにくいカウンセリングの世界を、知識だけではなく、疑似体験としても理解できるように描こうとしている点に大きな魅力があります。

「カウンセリングとは何か」という問いに、完全な答えを示すことは難しいかもしれません。しかし、クライエントさんと共に考え、見立て、試行錯誤しながら歩んでいく営みであることは、臨床の現場で日々感じていることでもあります。

もし、実際のカウンセリングに興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、どうぞ当オフィスのドアをノックしてみませんか?

(臨床心理士 調)

PAGE TOP