感覚過敏と感覚鈍麻~その違和感には理由がある-福岡臨床心理オフィスの臨床心理士によるブログ-

こんにちは、福岡臨床心理オフィスです。
暦の上では秋に入りましたが、まだしばらくは暑い日が続きそうです。
引き続き、熱中症には注意して過ごしましょう。

さて、秋と言えば「読書の秋」。
今回は2023年8月に発売された本の話を軸に、感覚過敏と感覚鈍麻について綴りたいと思います。

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加藤路瑛さんの新作『カビンくんとドンマちゃん』

以前、「感覚過敏という性質について知る」という記事で、感覚過敏について当事者としての立場から情報発信を続けている加藤路瑛(かとうじえい)さんの著書を紹介しました。
加藤さんには聴覚・嗅覚・味覚・触覚の感覚過敏があります。中学校では教室の騒がしさに悩まされて2年生から不登校となり、その後、通信制高校に進学。現在は感覚過敏研究所所長を務めています。

そんな加藤さんの3作目となる著書『カビンくんとドンマちゃん』(出版/ワニブックス)が2023年8月に発売され、早速読んでみました。
ちなみに、タイトルの『カビンくん』は感覚過敏(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの感覚が過敏な状態)、『ドンマちゃん』は感覚鈍麻(暑さ・寒さや痛み、におい、味など特定の刺激に対しての反応が鈍い状態)を指しています。

私が注目したのは、帯に副題として書かれている「その違和感には理由がある」という言葉でした。
この本のテーマの一つが「本人が違和感をどうメタ認知(※)するか?」です。
臨床心理士として、その「違和感」と対応についてお伝えしたいと思います。
※メタ認知:自分自身のことを客観的に分析し、把握して制御すること

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違和感を覚えている子どもへの対応は?

 臨床心理士としては、例えば学校の中である子どもが「違和感」を覚えていそうな場面で、「それは出来事を大きく捉えすぎているのではないか?」「不安があるから気にしているのではないか?」などと仮説を立てます。

対応としては、2つのパターンがあります。

  • 「気にしなくて良いですよ」「(安心すれば)慣れていきます」と、本人がその違和感をスルーする力が育つのを応援する。
    “経験の積み重ねによって馴れていけば、その違和感は減少していくはず
    ”と見立てるパターン。
  • その子どもが過敏さについて苦痛が大きいのであれば、慣れることと同時に自覚して対応する力をつけられるように応援する。
    その対応は“「拒否する事も含めて自分を守る」やり方があって良いですよ”と
    伝えるパターン。

です。
 親や学校の先生など子どもの身近にいる大人は、この2パターンの両面から応援できるのが理想ですしかし、そのバランスには見極めるセンスが必要でしょう。

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感覚鈍麻とはどのようなもの?

一方の「感覚鈍麻」は、感覚過敏に比べると一般的な認知度が低いかもしれません。
よく耳にする感覚鈍麻の例としては、体調の優れなさに気が付かない事が多いと言えます。

  • 自分の顔色が良いか悪いかが分からない
  • 足が冷えていても気が付かない
  • 熱があっても体感では分からず、体温計で測るしかない
  • お風呂のお湯の温度が適温なのかを手で確認しても分からない
  • 足を机の角にぶつけても痛みの感覚が少ない
  • 空腹・満腹の感覚が良く分からない

などです。
感覚鈍麻については、それを主訴として病院へ行く事はなく、他人にも悟られないため、自分の感覚をメタ認知出来る年齢になってから「実は自分こういう特徴があるな…」とこっそり打ち明けてくれる類です。

また、1人の中に感覚過敏と感覚鈍麻が同居している場合もあります。
クライアントさんが打ち明けてくれる話の中で、その両方があるという話も時々伺います。
例えば、聴覚過敏があり、他人や本や機器から雑多な情報の相当量を察知する能力や、判断力がある一方で痛覚が鈍かったり、疲れの自覚が乏しい人も居ます。
大人になる過程で、自分の感覚への自覚が高まり(メタ認知)そして知識を入れる事によって、その違和感への合点がいく…その後工夫を実行する、その繰り返しが生活のしやすさに繋がると思います。

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『カビンくんとドンマちゃん』を読んで

さて、最後になりましたが『カビンくんとドンマちゃん』を読んだ感想です。
感覚過敏や感覚鈍麻の意味について、医学情報も含めて分かりやすく解説され
ています。それと主人公が感じる、高校生活での感覚の違和感がマンガで表現されて秀逸です。
また、マンガ
やイラストの丁寧さと解説の配分が良く、字の大きさや紙の質や色合いにも読みやすさへの配慮を感じました。

考えてみれば、人と人との間で誤解が生じる時に何があれば楽になるかといえば、人の多様性について理解を深めることかもしれません。理解が深まれば、自分の心の世界が柔軟になり、外の世界と風通しが良くなりそうです。
「心の世界が時間の経過と共により柔軟になって、広がりや深みを増していくので
は」。そう思うと、未来に希望を感じます。

(臨床心理士 調)

 

 

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